トノー型、レクタンギュラー、スクエア、そしてより複雑な造形を持つデコラティブなデザインに至るまで、様々な優れたデザインが提案されました。
しかし当時の製造技術で作られたそれらの多くは、日々腕上でさらされることになる衝撃や振動、湿気や水気、温度変化といった外乱に耐えられるようなものではありませんでした。
それでも1910年頃に始まり、1925年のパリ万国装飾美術博覧会で花開いたアール・デコの流行とともに、角形の時計が大流行を見せます。
腕時計は身につけるもの。
ファッション性は腕時計の夜明けの時代から、時として信頼性や実用性をも上回るほどの大きな要素であったのです。
その時代の雰囲気を色濃く現代に伝える、アール・デコ・デザインの角形時計たちは、1930年代にアール・デコが落ち着いてくるに従っていったん減速を始めたかに見えましたが、第二次世界大戦が終焉を迎えようとしていた頃の「旧き良きアメリカ」が生んだアメリカン・デコの流れとともに復活。
アメリカのウォッチメゾンたちが中心となって、レクタンギュラーやスクエア、トノー型の時計たちをこぞって作り始めるのです。
そして当時、世界最大のマーケットであったアメリカへの進出を目指したスイスのウォッチメゾンたちからも、優れた非円形ケースの時計たちが数多く生まれるようになります。